もしも勇気が出たら君を抱きしめたい
「伊東、大丈夫なん?」
九条のストレートな質問に、僕も一緒に行こうかなぁなんてのんきなことを考えていた僕は、ドアの前で固まってしまった。
「なんか聞いてほしいことないん?」
なんで九条は、僕が言いたかったことを、こんなにすらすらと言うんだろう。
僕に背を向けているから、伊東の表情は全く見えなくて
「なんもないよ」
「なんもなくないやろ」
「なんもないっていうてるやんっ!」
けど、僕はだれかに声を荒げる伊東を見たことなんてなくて、表情を想像することすらできなかった。
「なんもないのに、そうやって怒らんやろ」
きっと九条は伊東の目を真剣に見てる。
その顔はどう見ても、伊東のことを真剣に考えている顔だった。