もしも勇気が出たら君を抱きしめたい
いつもなら、音楽室のドアを開けると、伊東がチューニング(みんなで音を合わせるためにやる)をするために前で準備をしているのだけど
今日はなぜか九条が準備していた。
「チューニングするから、みんな位置ついてー!本番と同じ並びで一回並んでみて!」
九条の指示がとび、みんな椅子をもってがたがたと移動する。
その中に伊東の姿もあった。
どうした?と声をかけようとしたとき、振り返った伊東を見て目を疑った。
マスクを目の上ぎりぎりまで引っ張っていても、わかるほど目がはれていた。
くりくりの丸い目が特徴なのに、もはや面影もない。
よく泣き腫らすと目が土偶のようになるというが、まさにそんな感じだった。
これは本人に聞かないほうがいいな、と判断した僕は九条のほうへ移動した。