もしも勇気が出たら君を抱きしめたい


いつもなら、音楽室のドアを開けると、伊東がチューニング(みんなで音を合わせるためにやる)をするために前で準備をしているのだけど

今日はなぜか九条が準備していた。


「チューニングするから、みんな位置ついてー!本番と同じ並びで一回並んでみて!」

九条の指示がとび、みんな椅子をもってがたがたと移動する。


その中に伊東の姿もあった。


どうした?と声をかけようとしたとき、振り返った伊東を見て目を疑った。


マスクを目の上ぎりぎりまで引っ張っていても、わかるほど目がはれていた。

くりくりの丸い目が特徴なのに、もはや面影もない。

よく泣き腫らすと目が土偶のようになるというが、まさにそんな感じだった。


これは本人に聞かないほうがいいな、と判断した僕は九条のほうへ移動した。


< 49 / 140 >

この作品をシェア

pagetop