もしも勇気が出たら君を抱きしめたい
新しい生活が始まって一か月。僕は高校三年生の文系クラスの化学を担当することになった。
初めての授業。たくさんのプリントを抱えて僕はとても緊張していた。
だから、彼女がそばにきたことも全く気付かなかった。
「せーんせっ!」
クラブで接する中ですっかり覚えたその声。
見た目によらない少し低い声は、廊下によく響いた。
「新しい化学の先生って松井先生なんやっ!ラッキー!!」
「伊東は文系クラス?」
「うん!うち先生になりたいから、文系よ。」
並んで廊下を歩く。僕は新学期の最初に吹奏楽部の顧問として紹介されているから、部長の彼女と並んでいてもなんの違和感もない。