もしも勇気が出たら君を抱きしめたい

新しい生活が始まって一か月。僕は高校三年生の文系クラスの化学を担当することになった。

初めての授業。たくさんのプリントを抱えて僕はとても緊張していた。

だから、彼女がそばにきたことも全く気付かなかった。

「せーんせっ!」

クラブで接する中ですっかり覚えたその声。

見た目によらない少し低い声は、廊下によく響いた。

「新しい化学の先生って松井先生なんやっ!ラッキー!!」

「伊東は文系クラス?」

「うん!うち先生になりたいから、文系よ。」

並んで廊下を歩く。僕は新学期の最初に吹奏楽部の顧問として紹介されているから、部長の彼女と並んでいてもなんの違和感もない。

< 5 / 140 >

この作品をシェア

pagetop