もしも勇気が出たら君を抱きしめたい
二学期に入って、吹奏楽部は新体制になった。
もう、伊東の号令を聞くこともないし。九条の嫌味を聞くこともない。
岡部は手探りながらも、三年生の抜けた穴を埋めるのに必死だ。
「せーんせーい」
研究室の外から声が聞こえて、急いでドアを開ける。
「・・・なんでそんなにがっかりするんですか!失礼な!」
どうやら気持ちがそのまま顔に出ていたらしい。目の前に立っていたのはしかめっ面の岡部だった。
「いや、そんながっかりなんかしてないよ」
慌てて取り繕うが、どうやら無駄らしい。
「もういいです。次の定期演奏会でする曲のことなんですけど」
岡部が話にくるこの内容は、少し前までは伊東と話し合って決めていたことだ。
もう、伊東がこんな風に研究室にくることはない。