もしも勇気が出たら君を抱きしめたい
二人で久しぶりに向い合せに座る。
研究室にまで、吹奏楽部の音色が響いていた。
「この音は美優ちゃんのフルートかなぁ、うまくなったな」
机にほほ杖をついている伊東の前にミルクティを置く。
「勉強はどう?」
「むりむりむり。難しすぎ。模試もぜんぜんやし、やっぱ教育大は厳しいね」
伊東がおどけた風にいう。相当疲れているらしい。
「まだ九月やろ、周りもみんなそう思ってるよ」
「ほんまに?」
「九条の名言聞く?」
「聞く!」
楽しそうに伊東が身を乗り出す。
「僕はどんなに判定が悪くても、行きたいところに行きます。僕は本番に力出すタイプなんでって。」
これはこの前九条に言われた言葉だ。あまりにも自信満々すぎて、なぜか納得してしまった。
「九条らしい。あいつはなんだかんだ本命にいくんやろなー」