もしも勇気が出たら君を抱きしめたい
こういうときに、何かかっこいい一言でも言えたらいいのに。
こういうときに、何か。何か伊東が救われるような一言が言えたらいいのに、僕は何も言えないでいた。
何か言ったら目の前の伊東が壊れてしまう気がして。
「・・・うん。」
そっと右手を伊東の頭の上に乗せる。
「がんばったよ。」
それだけ言って、頭をなでる。
「・・・先生」
「ん?」
「ほんとに頑張ったんよ。できること全部。」
「わかってるよ。伊東ががんばったの、わかってるから。」
いつもいつも思う。
僕は九条みたいに、気のきいたことは言えない。
それでも伊東がこういうときに、僕のところに来てくれるのは、少しは僕のことを信用してくれているからで。
けど、僕はその信用にこたえられているのかわかんなくて。