さよならリミットブルー
「そう……なんだ」
ちゃんと、話してたんだ。そんな考えがふと頭に浮かぶ。
確かに上手くいってないとは言っていたけど、所詮それは過去の話。
数ヶ月前に碧人くんが言っていたことに過ぎない。
過去と今をそのままイコールで結びつけることはできないし、どうやらわたしの余計な心配だったらしい。
何より、碧人くんが前を向いて生きている証拠だった。
「それなら早く記憶を取り戻してさ、またこの場所で…………」
「またこの場所で家族と一緒に過ごせたらいいね」そう言おうとしたが、途中で声が途切れてしまった。
落とした視線の先に浮かぶのは、わたしたちの未来の情景。
もしもまたこの場所で暮らすことになったら、碧人くんは確実にわたしから離れていってしまう。
物理的な距離ももちろんあるけど、用済みになったわたしをいつまでも覚えていてくれるのだろうか。
碧人くんたち家族の幸せを願うのは当然のことだけれど、それと同時に寂しさが込み上げてくる。
記憶が戻ってもわたしは碧人くんとはずっと友達でいたい。
でも、碧人くんはどうだろう。
記憶を失くしていた時に築いた時間はもう必要なくなるんじゃ………。
「たとえすべて思い出したとしても俺は今ある生活を捨てたりしない。過去も大切だけど、それは“今”も同じだから」
何かを察したように碧人くんが言葉を零した。
「なっ、なんでさっきからわたしの考えてることがわかるの!?」
それでいて、わたしの不安を全部取り除いてくれている。
今日の碧人くんはエスパーにもほどがあるよ。