さよならリミットブルー

昔の碧人くん、か。

昔の碧人くんのことは当然のように何ひとつ知らない。

記憶を取り戻したその時は、本当の碧人くんを教えてくれるのだろうか。

そんな考えが頭の中にふわりと浮かんできた。


「ここから見える景色、なんだか懐かしいな………」


展望台に登ってから、碧人くんを纏う空気が明らかに違う気がする。

もしかして、何か思い出せたの………?


「懐かしいって、ここに来たことがあるってこと?」


どこに行っても変わらなかった碧人くんが、はっきり「懐かしい」と口にした。

それなら、きっとこの場所は大切で思い深い場所に違いない。


「たぶんな。誰かとよくここに来ていたような、そんな感じがする………」


軽く頭を押さえながら、ぼんやりと焦点が合わないような瞳で景色を眺めていた。


間違いない。

碧人くんの記憶は戻り掛けている。

< 120 / 313 >

この作品をシェア

pagetop