さよならリミットブルー
「日野くんの記憶を取り戻しに、かぁ」
真剣な瞳を向けられているにもかかわらず、動じない北上さんはまた麦茶を手に取った。
カラン、カランと揺れ動く氷の音。
鳴ったのは本当に一瞬で、ひと口も飲まずにまたテーブルの上に戻っている。
「よかった」
「えっ、あの「よかった」ってどういう意味………」
「日野くんが前を向いて生きてるならわたしも嬉しいよ」
なんだか話が見えてこない。
北上さんは、碧人くんが記憶喪失なのを知っている……?
「よかった」とか「前を向いて生きてる」とか知っている人にしか言えないような言葉。
「碧人くんが記憶喪失なの知ってるんですか?」
「うん、知ってるよ」
「それって、碧人くんから聞いたんですか………?」
「聞いたというか……“知った”って言う方が正しいのかな」