さよならリミットブルー

気がついたら、碧人から缶ジュースを奪い取っていた。


「うおっ、びっくりした」

「ご、ごめん…」

「ったく……好きだからってがっつくなよ」

「あはは」


楽しそうに笑い飛ばす碧人に、少しだけ罪悪感を感じた。


ごめん、嘘だよ。


グレープフルーツは酸っぱいからどちらかと言えば苦手な方だし、自分で買ったことは1度だってない。

わたしが普段飲むのはミルクティー。碧人も知っているはずなのに。

……もしかして忘れちゃった?


「そういえば、ソラは元気にしてるか?」

「うっ、うん!元気だよ。元気すぎていつも外に飛び出して行っちゃうけどね」

「ははっ、ソラらしい。退院したら久しぶりに会わせてくれよ。最後に会ったの随分前だしな」

「……もちろん。ソラもきっと喜ぶよ」


違う。忘れたわけじゃない。


ソラはわたしの飼い猫で、付き合い始めた頃から何度も碧人と会っている。

以前、碧人たちが地元に来ていたときに1度会っているけど、それは記憶を失っていた頃の話だから忘れているのが当然の話。


なんだろう、この違和感は。
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