さよならリミットブルー
走ってもいないのに日野くんの歩くスピードが速いのは、きっと長すぎる足のせいだ。
待って。待って。
後、もう少し。
手が届きそうーーーー。
「待ってってば!」
足の遅いわたしが日野くんの腕を掴めたのは、屋上に続く階段の目の前だった。
「はぁ……はぁ……待ってって……言ったのに……」
乱れた呼吸をなんとか抑えようと息を飲み込んでみるが、効果はないようだ。
バクバクと激しく音を立てる心臓が痛い。落ち着かない喉が苦しい。
「しつこいな……」
振り返った日野くんと今日初めて目が合った。
いつもと同じ、悲しげで冷たい瞳。
「今日こそ受け取ってよ、ピアス」
「っ……いらない。そんなピアス、俺は知らない」
また、日野くんは嘘をつく。
ピアスを見せると、必ず戸惑った表情をすることをわたしは知っている。
絶対日野くんの物だと思うのに、なぜかピアスを頑なに受け取ろうとしない。
どうしてもその理由が知りたくて、何度も日野くんに詰め寄った。