さよならリミットブルー
捨てた思い出
ポタポタと髪の毛から流れ落ちる水滴が、日野くんのシャツにじわりと染み込んだ。
服を着ているとはいえ、2人ともただの薄いシャツ1枚。
水が浸った服からは、素肌のように直接体温を感じとれる。
「っ……」
この状態のまま、どれほど時間が経っただろう。
恐らく1分も経っていないだろうけど、体感時間は10分を超えている。
それに、わたしの体をぎゅっと抱きしめるだけで、日野くんは何も言ってくれない。
少しずつ冷静さが戻ってきた今、わたしの頭はこの状況を分析し始めていた。
屋上に居たはずの日野くんがここに現れたのは、きっと上からプール見ていたから。
やはりピアスの行方が気になったんだと思う。
それじゃあさ。今、わたしを抱きしめている理由は?
なんの得もないはずなのに、日野くんは体を離さない。
抱きしめる力が強くて、息も苦しくて。
それでもなぜか落ち着くこの空間を、手放したくないと思えてくる。
このまま時間が止まってしまえばいいのに………と、変な願い事が頭に浮かんだ。