さよならリミットブルー
「そのピアスを見るたび、なぜか泣きそうになるんだ。自分の物かもわからないただのピアスに、これ以上苦しめられたくなかった」
ふと、屋上で会った日の出来事が頭に蘇る。
あの日、日野くんは泣いていた。
ピアスを落とした次の日だもの。
どこで落としたのかとか、もう見つからない方がいいやとか。そんなこおを思っていたんだろう。
悩んで、考えて、思い出して。泣いていたのかもしれない。
「手放したかった。ただ、それだけで……」
日野くんの言葉はどこか違和感を感じるものばかり。
ただそれだけの理由なら、あんなにムキに“受け取らない”を貫く必要は無かったんじゃないだろうか。
「自分の物かもわからないのに、泣いちゃうなんて変だよ。本当に知らなかったらそんな感情すら生まれない」
「………っ……わからないんだっ……!」
額に手を当てながら俯く日野くんの姿は悲しみに溢れ、今にも消えてしまいそう。
日野くんがいつも苦しそうにしていることは知っていた。
何か事情があるのかもしれないとは思っていたけれど、この後に続く言葉をいったい誰が想像できただろう。
「俺、昔の記憶がないんだ………」
突然告げられた真実はあまりにも残酷で、わたしは身動きひとつ取れなかった。