『大好き』と言えたらどんなに幸せだろう。
どうして私はその時、その光景を当たり前のものに見れなかったのだろう。




無邪気な笑顔にベールがかかったように輝いて、木の隙間から差し込んだ光がちょうど彼へと降り注いでいた。


はしゃいで尻尾を振るゴールデンレトリバーは彼の顔を舐める。




私の足はいつの間にか止まっていた。



初めて…




人に見とれた瞬間だった。







「帰ろう。メル。」



彼は立ち上がった。


しゃがんだままではわからなかった長い足が高い背を際立てる。



その時だった。


彼の瞳が確実に私をとらえた。





胸の鼓動が一つ大きく高鳴って一瞬で目をそらした。


しばらくすると、彼が行ってしまうことが気配でわかった。



立ち尽くした私は胸のドキドキがおさまるのを待っていた。




辺りにはまだ少しだけ、春風に混じるようにミントの香がのこっていた。




私の恋は知らないうちに始まっていた。



でも、その時の私にはそんなことがわからなかった。
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