独り
……痴漢野郎が正座してうなだれていた。
横に立っていた駅員さんに、この子が被害者です。と言った。
駅員さんは、書類をたくさん持っていた。
そして、ため息をつきながら言った。
「あ~、いいよいいよ、こいつ常習犯だからねー。
次は無いって言ったのに!
しょうがないねぇ〜、出禁だ出禁!
うん、お譲ちゃん怖かっただろー?
でも、まだまだ痴漢なんていっぱいいるからねぇ。
気をつけなよ?
それから、きみ!よくやった!
高校生にしてはよくやったよー!
おじさん助かった!!
うん、この年で痴漢野郎追いかけるなんてキツくてキツくて、ははは!
感謝状でも送るよー。
君たちの名前とか電話番号とか住所とか教えてくれる?
書類書かないといけないからさぁ〜。」
年配の駅員さんは、マシンガントークを繰り広げバサバサと書類をゆらした。
「はい。えっと、私は成瀬愛花(なるせあいか)と言います。あ、これ学生証です。」
「あ、学生証助かるよー!成瀬さんねぇ。君は?」
「あ、俺は、秋野時雨(あきのしぐれ)です。俺も、これ、学生証です。」
「ふーん、秋野くんねー。ん?君達同じ学校だねぇ。もしかして彼氏彼女??ははは!そこまでは聞かないけどねぇ~」
(今聞いたじゃん…)苦笑
「いえ、今日初めて会ったんで。」
「えっ……?」
「へぇー、そうなの?ははは!
まあ、今日は災難だったねぇ。後日また連絡するから!
今日はもう遅いし、帰りなさい。気をつけてねぇ。」
『はい』
…もう9時近い。
「えっと、成瀬さん。もう夜遅いし、家まで送るよ。」
「そんなっ、悪いです!助けていただいて、お時間まで取らせてしまったのに…」