独り
俺は成瀬さんの腕を少し引っ張って元いた場所まで戻した。
成瀬さんはまた壁にもたれてバランスをとる。
それと同時にそっと手を離した。
「あ、そっか。うん、ありがと。…あの、何でもないの、あはは…。」
「そっか、成瀬さん可愛いんだからまた痴漢にあわないように気をつけないと。」
「、えっ??」
(あっ、俺今さらっと可愛いとか言った…やばい、照れる…///)
「一人で満員電車に乗るのは危ないよ…もしかして今日の初めてじゃ、ない?」
(…今まではどうしてたんだろう?)
「き、今日が初めてだよ!すごく怖かったし、気持ち悪かった…。」
「っ!な、成瀬さん!思い出させてごめん!大丈夫?」
顔を真っ青にしてカタカタと震えている彼女を見ると、聞いてはいけなかったと自責の念にかられる。
「だ、大丈夫!私は平気だから!し、心配かけてごめんなさい。」
「そんな、謝らなくていいよ。今のは俺が悪かったし…ごめん。」
「秋野くんも、そんなに謝らなくていいのに!
ずっと気を使わせちゃってるし…ほんとに申し訳ないくらい…。」
「いや、だって俺が悪……って、この話すごくループしてるよな!
謝ってばっかで、話重くなっちまったな。
ここで切るか!俺はもう気にしない!
だから、成瀬さんも…気にしたらだめ。」
「う、うん!気にしない!ありがと!」
「いいえ〜」
【○○〜、○○〜、○○駅でお降りの方はお忘れ物の無いようご注意ください。】
「あっ、ついたな。ドア気をつけて。」
「う、うん!ありがとう。」
成瀬さんをリードするようにホームに降りた。
改札をぬけて、西口に向かおうとして止まる。
「あっ、成瀬さんって、方向どっち?」
(危なかった。ついいつもの癖で普通に帰ろうとしてた。やばいやばい…汗)
「えっと、西口から出て右の道にまっすぐ進むの。」
「まじか!俺の帰り道と一緒だ!もしかして…大宮神社知ってる?そこから家近い?」
「うん。近いよ!うーん、家から2分もかからないかなぁ。」
ふたりでならんでずっとまっすぐの道を歩く。
人気が無く、車もあまり通らない上に、街灯も少ない。
話し続けながら、こんな道は女の子一人で通るのは危ないよな、と思った。
「おぉー、俺もそれくらい!すっごい家近いじゃんw」
「そうなの?すごい偶然だね!びっくりしちゃった!」
「俺も!あ、じゃあさ、これからは登下校一緒に行かない?
成瀬さんがまた痴漢に会うの嫌だし、俺が成瀬さんを守っていれば、痴漢どころか不審者ですら近づけないよ?」
俺は少しドヤ顔で言ってみた。
「えっ?いいの?」
「いいよ。一人で学校行くのも寂しいしな!」
「あ、ありがとう!ホントは少し怖かったの、えへへw」
(やっぱり女の子ひとりじゃこの道は怖いよな…。)