choice 01
船が出航して一時間程経過した頃、葵と美夢は船の甲板に出ていた。
「風か気持ちいいねっ!来てよかったでしょ?葵…」
風になびいた髪を、手でかきあげながら、心地の良い風を、美夢は堪能している。
そんな美夢を見て、葵は言った。
「そうだな…、皆個性が有り興味深い…警部殿に感謝だな」
「そうだね、お兄ちゃんにお土産買って帰らなくちゃ」
葵と美夢が会話をしていると、甲板に歩がやって来た。
「うう…、少し飲み過ぎた…」
歩は少しふらついている。
悪戯めいた表情で、美夢が歩に言った。
「また有紀さんに怒られますよ」
歩は苦笑いして答えた。
「うん、だから有紀から逃げる様にここに来た…。酔い冷しもかねてね」
美夢は歩に言った。
「歩さんて、人見知りとか全然無さそうですね。あの九条さんともすぐに仲良くなったんですよね?」
「俺、あいつが有名人って、知らなかったんだよ…。有紀に聞いて驚いたよ…大臣の息子だろ?」
葵が歩に言った。
「あれだけメディアに露出しているのに…、知らないとは…もしかして…」
美夢は葵が話しているのを遮って、歩に笑顔で聞いた。
「有紀さんとはどういう関係なんですか?恋人同士ではないんですよね?」
ストレートな美夢の質問に歩は不快感を示すことはなかった。
裏表のない美夢の笑顔に、悪意は感じ取れない。歩は少し間を取って答えた。
「一言で言うと…、戦友かな…」
「戦友…、ですか?」
美夢よくわからないと、いった表情だ。
葵が歩に聞いた。
「因みに職業は?世界中を飛び回ってそうですが…?」
歩は目を丸くして言った。
「よくわかったね?!俺、カメラマンでさぁ…、ほとんど日本にいないんだよね。なんでわかったの?」
葵は淡々と答えた。
「やはりカメラマンですか…他の職業の可能性もありましたが…、答は簡単です。まずこの国内で九条司を知らない人間は、いないからです。時の人ですからね…」
更に葵は続けた。
「では、何故知らなかったか…、それはあなたが日本にいないからです。それにそのあなたの日焼けの仕方は、海外転勤のビジネスマンの日焼け仕方ではありません」
歩は頷きながら葵の話を聞いている。
「それとあなたの…その誰とでも仲良くなれるフランクな性格は、コミュニケーションを取り、各国のシャッターポイントの情報を得るには最適です」
歩は葵に言った。
「でもそれだけで俺がカメラマンとは断定できないよ、ジャーナリストかもしれなよ」
葵は答えた。
「断定はしてませんよ。ただ、ジャーナリストなら余計に九条司を知ってる可能性が高くなります…よってジャーナリストではありません。ジャーナリストなら嫌でも現大臣の情報は耳に入ってきますからね」
葵は更に続けた。
「美しい風景や、秘境を撮るのなら九条さんの情報は必要有りませんからね…。ただ、ボランティアや他の職業の可能性も有りましたから、断定はしませんでした」
歩は感心したように言った。
「おそれいったよ!流石、天変…いや、天才月島ってところか…」
葵は偉ぶる事もなく歩に言った。
「カメラマンの可能性が僕の中で高かっただけです。でも、当たって良かったです」
美夢は葵に言った。
「あんた、その人のアラ探しみたいな事するの止めなよ…」
葵は少しムスっとした表情で言った。
「僕はアラなど探してないぞ」
歩が二人を宥める。
「まぁまぁ…美夢ちゃん…、俺は何にも気にしてないよ。でも本当に葵君は凄いよ有紀が興味持つのもわかるよ」