男子と会話はできません

幸子さんをリードでつなぐと、嬉しそうに尻尾を振った。


今から散歩だってわかってる顔。


フレンチブルドッグの幸子さんはメスだ。


幸子さんという名前も羽麗という名前もママがつけてくれた。


わたしは、産まれてきたときに麗しい天使に見えたからという理由でこの名前にしたらしい。


一度、小学校の授業で名前の由来を調べてくるってことがあったときに聞いた話。


恥ずかしくて、わたしはその宿題を放棄した。


「わたしも幸子が良かったなー」


幸子さんに言えど、素知らぬ顔で歩いていく。


家を出て左に曲がってしばらく歩くと小さな橋がある。そこを右に曲がると舗装された川の土手に出る。


歩きやすいいつもの散歩コース。


少し小高いところから、川を見下ろし空を近くに感じる清々しい感じが好きだ。


西日が眩しいと目を凝らす。


見慣れた制服だと気づくと、顔が見えた。隼人くんだ。


こっちに向かって歩いてきた。


隠れなきゃと、条件反射みたいに思ったけど、隠れる場所がない。
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