男子と会話はできません

それから数日後、登校中に高塚を見つけた。


橋の上を歩いている。話しかけることもなく、横をそっと歩いて追い越す。


「隼人くん」


高塚が呼んだ。


立ち止まって、振り返ると、「ありがとう」と、はっきりした口調で言った。


少し頬を染めていたから、不器用そうな女の子に見えた。


「なにが?」


訊き返したそのときには、この前のことなど、記憶の中から薄れていた。


井上も包帯を巻きながらも、普通に登校してたし。


「この前、先生に言ってくれたこと」


「なんか言ったっけ?」


「……忘れてるならいいや」


投げやりに言うと、足早になり、俺を抜かす。


そこでようやく思い返したのが、先生に言ったあの一言だった。


「思ったこと、言っただけだから」


気を悪くさせたとは察してそう言った。


ちゃんと覚えてると伝える必要性を感じたから。
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