男子と会話はできません
それから大きな水槽のマイワシの群れを眺めたり、小さな水槽に名前は書いてあるのに見つけられない魚を探したりしているうちに、
見ようと約束していたイルカのショーが始まる時間になってしまった。
慌てて向かっていると市ノ瀬くんが
「羽麗ちゃん。危ない」
と、わたしを軽く抱き寄せた。
「横から人、来てたから」
「あ……ありがと」
すごくびっくりして、ドキドキした。
こういう風に急に触れられたり、優しくされるのって慣れてないから。
市ノ瀬くんは「あれ?まつ毛ついてる」とわたしを見て言った。
「嘘」と、指で下瞼に触れる。「逆だよ」と、指先で反対の頬に触れた。
ビクリと肩があがり、恥ずかしくてうつむいてしまった。
「あ、ごめん」
「……」
「行こっか」と、固まっていたわたしに声をかけた。
ようやく顔をあげると実咲ちゃんと隼人くんの姿がなかった。
「あれ?」
「先行っちゃったみたいだね。大丈夫。向こうで会うよ」
会場に着いて階段のいちばん上から見下ろしても二人の姿が見当たらない。