男子と会話はできません
「あのさぁ」と、低い声がした。わたしを呼び出した女の子だった。この子が主犯格なのかな。
何かしたっけと考えるけど、思い浮かばない。
「市ノ瀬とどういうつもりなの?」
「どういうつもりって」
「この子、市ノ瀬と別れてからずっと引きずってるの。それなのに最近市ノ瀬の周りうろついてるじゃない。この子がどういう気持ちかわかる?」
この子と呼ばれた子は、少し後ろにいた。何組だろう。見たことはあった。市ノ瀬くんと並んでもお似合いそうな整った顔の子。
ただわかるのは、この子の気持ちなんか考えようとも思わないくらい、関わりがなかった。
「えっと」
こういうとき彩子だったら、なんて言うんだろうと、友達に置き換えて考えた。
たぶんきっとこんな理不尽なこと言われたら、足元をすくって投げ返すような言葉を言えるのに、わたしはこういうとき黙ってしまうみたい。
言葉が出てこなかった。