男子と会話はできません

隼人くんの家は知っていたけど、中に入ったのは初めてだった。


瓦屋根の大きいお家で、広い庭には岩に囲まれた松の木が空に向かって延びていた。


池もあり、その周りにも岩や石灯籠が据えられていた。


庭から畑が見えて、お父さんは会社員だけど、おじいちゃん、おばあちゃんは農業をしてるって聞いていたことを思い出した。


突然の訪問だったのに、隼人くんのママは嫌な顔ひとつ見せないでいらっしゃいとわたしを家にあげた。


二階に通されると、そこが隼人くんの部屋で、ベッドと反対側に机や本棚があって、シンプルで整理整頓されていた。


促されるままローテーブルの前に腰を落とすと、「何か必要なものある?」とわたしに訊いた。


「えっと……水で濡れてるから乾かしたくて、ドライヤーとかあれば貸してほしいな」と告げると、数枚のタオルとドライヤーを持ってきてくれた。


「これで大丈夫かな」と、ローテーブルの上に置いた。


制服がどんな状態かってわかっているのに、鞄から出すのが、恥ずかしかった。
< 183 / 459 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop