男子と会話はできません
◇
「羽麗―!」
「実咲ちゃん」
移動教室の帰り、実咲ちゃんに会った。
「ちょっと噂になってたよ」と、わたしを廊下の端まで誘導すると開口一番にそう言った。噂という言葉に胸がどくんとした。
「市ノ瀬くんと付き合ったんだね」
そっちか、と少しほっとしたような怖いような気持ちにかられた。
「ごめんね。実咲ちゃんに言うつもりだったんだけど、会えなかったから」
「いいよいいよ。ていうか二股の話は大丈夫だったの?それ心配してたからさ、びっくりして」
「うん。それなんだけど、本人に訊いたら彼女は今いないし、わざとそういう嘘をついて振ってたって言ってたから」
「ええっ。本当に?紛らわしいね」と、呆れた。
「ふふ」
「でも誤解なら、良かったよ。がんばってね」と拳をつくった。