男子と会話はできません
「なんか結局いっつもこんな感じだね」
「う、うん」
「小さいとき、ここでよく練習してたんだ」と、その場で軽くドリブルをする。
「そうなんだ」と、小学生の男の子たちに視線を向けた。
小さな市ノ瀬くんを想像して重ねてみた。たぶんきっと、友達と仲良く、真剣にやっていたんだろうな。
「あのときの俺にさ、今の俺、こんなに幸せだって教えたいなー」と、地面を強く弾んだボールを受けとめた。
わたしは、昔のわたしにそう言えるのかな。考えた。
「羽麗ちゃん、あんまり考えなくていいよ」
「えっ?」
「難しいこと。なんか楽しいと思ったら、一緒にいてくれる。それだけでいいんだし」
わたしの気持ち、全部見透かされているみたいだった。
いちいち隼人くんと市ノ瀬くんを比べたりしているってことも。
そう考えると、本当に自分って、嫌な子だ。
だけど、「ねっ」ってそれさえも肯定してくれるように笑うから、それでもいいのかと思いそうになる。
なんでも許してくれるのかと、錯覚してしまいそうになる。
「最近、変わったことない?」
「うん。大丈夫だよ」
市ノ瀬くんと付き合ってから、また呼び出しを受けたりするのかなと思ったけど、何もなかった。
これで良かったんだと思いたくなるくらい平和だった。
市ノ瀬くんは何も言わなかったけど、実際は、あの子達に何か言ってくれたりしたのかな。
気になったけど、訊けなかった。