男子と会話はできません
◇
結局、昨日言えなかった。
「どうしたの?暗い顔して」
杏奈がわたしの浮かない表情に気付いて聞くから、「ママが」と昨日の一件を報告すると笑った。「お土産ちょうだいね」と、他人事。まあ杏奈に言って何かが変わるわけでもないんだけど。
ハァと、溜息を吐きながら、鞄の中に忍ばせた紙の小袋の中に入れていたお守りを取り出して杏奈に見せた。
「あのさ、杏奈これ何に見える?」
「……ユニフォーム?あ、お守り?市ノ瀬に?」
「良かった。ユニフォームには見えて」とほっとした。
「手作り?羽麗、随分可愛いことすんだね」と、ふざけながら肘でつついた。
「またバカにして」
「してないよ。あたしだったら、絶対こんなの作らないからすごいと思って。愛だね、愛」と冷やかしながらお守りをわたしに手渡した。
「石川」
急に背後から声がして、びっくりした。手が滑って、お守りを下に落としてしまった。