男子と会話はできません
昇降口の前を通りかかると「い……市ノ瀬くん」と呼び止められた。小柄な影が近づいて、笑った。
「あれ?羽麗ちゃん?」
「このくらいに、部活終わるんだね?」
「あ……うん。どうしたの?」
「今日、文化祭の準備で残ってて」
「ああ。そっか。けっこう遅かったんだね」
「うん。遅くなったから、もしかしたら市ノ瀬くんに会えるかと思って、待ってたんだ」
「……」
「どうしたの?」
「えっ?いやなんでも……な……くなくて、ある」
きょとんとしてから、変なのと、笑った。
まじかよ。
なんだこれ。想像以上に嬉しすぎて、頬が必要以上に持ち上がる。
なんだよ、これ。
「じゃあさ、チャリ取りに行くんだけど、一緒行かない?」
「あ、うん」
彼女の手をためらうことなく握った。驚きが指先から伝わってきたけど、そのままゆだねるように握り返してくれた。