男子と会話はできません

そのまま立ち上がると、「冗談だよ。ありがと」と礼を言った。


俺は何がしたいんだろう。


友達の彼女だとわかっているのに。市ノ瀬を裏切りたくもないのに、こうして見えないところだからって、最低なことを平然とした。高塚にも市ノ瀬にも嫌われるような行動だ。


高塚だって、好きじゃない奴にこんなことされたら、気持ち悪いに決まってる。


それなのに、ごめんなんて、言いたくなかった。


あの瞬間だって、自分の気持ちが抑えられなかった。


「良かった。もうびっくりしたよ。大事なおみ足が……せっかく良くなってきたのに、わたしのせいで悪化したら……本当に良かった」


今日も高塚は変わらない。優しくしてくれる。心配してくれる。


だから、後悔してるんだ。


もう一度付き合ってほしいって言うつもりだったのに、言えなかったことを。


市ノ瀬が好きだと知っても関係なかった。


もう一度、告白するつもりだった。


でも、付き合ってしまったら、もう言えない。


言ってはいけない。


そう思ってるのに、往生際悪く、俺は心配される度、勘違いかもしれないことにすがりつきたくなってしまうんだ。
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