男子と会話はできません
向かう廊下の先、看板を持って立っている市ノ瀬くんがいた。どうやら友達と呼び込みをしているみたい。
通りすがりの女の子の視線が、市ノ瀬くんに向けられ、逸らされる。
数人で声をかける子もいて、少し話をすると、足早に去っていった。
その後ろ姿は、はしゃいで見えた。
そういえば、モテるんだっけな。
普段意識してないことなのに、大勢の中に紛れると、そういうこと思い出す。
あの中に、市ノ瀬くんのこと好きな子っていたりするのかな。
行こうと踏み出すと、また立ち止まり市ノ瀬くんに声をかける女の子がいた。
あ、マネージャーの可愛い子だ。若槻って呼ばれてたっけ。
そういえばあの子からデートに誘われたんだっけ?
断ったとか言ったのに、よそよそしさもなく自然な関係に見えた。もう若槻さんは何とも思ってないのかな。
「高塚?」
ハッとする。隼人くんだった。
「どうしたの、廊下のまん中で立ち止まって」
「あ、ううん。ちょっとボーッとして」
今日、話すのは初めてだったせいか声が上ずった。
「市ノ瀬?」と、訊いた。