男子と会話はできません
看板を置いて戻ってくると、「羽麗ちゃん、迷路行きたいな。見たい。作ったの」と、誘われた。
「えっ?」
「羽麗ちゃん、道わかるだろうから、俺
が先頭行くから。絶対、教えないでね!」と、意気揚々。受付の杏奈に冷やかされつつ並んで二人で入った。
時間設定されたキッチンタイマーを首に下げると、
「なにこれ?ちょっと緊張すんだけど。時間内にゴール出来なかったら捕まるわけね」
と、理解して呟いた。
「うん。頑張ってね」
「なんかプレッシャーあるね。つうか、けっこう暗い」と言うと、わたしの手をとる。ドキッとした。危ないからかな。繋いだまま歩いた。
何度か道を間違えたけど、タイマーはまだ鳴りそうにもない。
「もう少しかな?無事着けそうじゃね?」
と、少し得意気だったけど、ゴール手前のウレタンの床で、市ノ瀬くんは躓いた。つられて転びそうになった。
「びっくりした。なにこれ?」と、足を止めた。
「ここの床びっくりしたでしょ?わたしも昨日ここで……」と言いかけてやめた。隼人くんに抱きしめられたことを思い出したからだ。
「ん?」
「ここで転んだの。躓くところ一緒だって思って」
「本当に?似た者同士だねー」と、市ノ瀬くんは笑って、今度は胸が痛んだ。