男子と会話はできません
「可愛くないよ。エアコンの名前みたいとか言われるもん」
「うーん。でも俺は羽麗ちゃんの名前好きだから、やっぱり下の名前で呼びたいな」
名前がコンプレックスという気持ちなんて、当人しかわからないだろうな。呼ぶほうはそこまで気にしないだろうけど、毎日この名前と向き合うわたしは、ちょっと嫌なときもある。自己紹介とか、人ごみの中で呼ばれたりするの、抵抗ある。
市ノ瀬くんの名前も珍しいけど、バカにされたりしないだろうし。
「まあ、俺も小さいときは名前、好きじゃなかったけどねー。なんか慣れるよ、そのうち」
あっけらかんと言う。
「愛着みたいなの感じるよ。だって親がさ、つけてくれたんだもんね」
「そうだね。でも名前が違かったら、人生変わってたのかなーとたまに思う。こんなことで悩む必要ないから」
「えっ?じゃあなおさらダメだね。だって、その名前だから俺と出会えたんだもんね」
「……」
「……無意識で、恥ずかしいこと言ったかも」と、炭酸のジュースを飲んだ。
「う……ううん」
「でも羽麗ちゃんが嫌いでも俺は好きだから、やっぱり呼ぶよ。好きになってもらいたいじゃん。自分の持っているもの。ひとつでも多く」と、階段に手をつき、リラックスした表情で言った。