男子と会話はできません




終業式。明日から夏休みだ。


「やっと夏休みだわ」と杏奈が大きく伸びをした。


「杏奈は夏休み、何かするの?」


「部活と、できたらバイトかな」


「わたしとも遊んでね」


「嫌なこった」


「冷たいんだからー」とすねた顔をしながら、体育館に向かった。


大勢の生徒の中、市ノ瀬くんの姿はすぐ見つけられた。どうしてあんなに目立つんだろう。今日も友達と話していて、笑顔が移ってしまいそうなくらい楽しげだ。元気なことが嬉しいのに、ちょっと寂しかった。


目は、あわなかった。


それはそうだ。市ノ瀬くんは、別れた子とは友達にならないから。一度彼女になった子は、彼女か、その他大勢の二択のひとつになり、わたしはその他大勢に分けられた。それだけなんだ。


目が合って、手を振る。大勢の中から見つけてもらえる。それは、どれだけ特別なことなんだろう。


身を持って実感する。まだわたし、どこかで別れた気がしてないのかな。


少しずつ、その感覚もなくなっていくのかな。市ノ瀬くんといた時間がなくなっていくように、ゆっくりでも、なくなっていくのかな。
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