男子と会話はできません
30(side.H)

「隼人」


市ノ瀬と喧嘩をして数日後、何事もなかったような顔で廊下で俺を呼び止めた。


「市ノ瀬」


腕組みをしながら「ちょっと面貸せ」と、偉そうに言う。非常階段の扉を開けるまで市ノ瀬も俺も何も言わなかった。


「うわ。ここにするんじゃなかった」と、体育館を見下ろしながら市ノ瀬は呟く。そのまま手すりに腕を乗せ背中をもたれた。


「あのさ、別れたから」


「……」


「なんか言えよ。そうっていつもみたいに、動じませんって顔でさ」


「俺があんなこと言ったから、高塚と付き合うの嫌になったの?」


「るせー。お前、あのタイミングであんなこと言うなんてさ、陰謀だろ。策士だろ。仕方ねーから、その手に引っかかってやったんだよ。だって両思いだろ。隼人達」


「はっ?」


市ノ瀬のいう両思いという言葉にピンとくるはずがなかった。なんとなく嫌われてもいないだろうとは思うけど、好きだと思われてるかと尋ねられたら、答えはノーに決まっている。


「高塚がそう言ってたわけじゃないでしょ?」


「俺、勘はいいからさ」と、笑った。それに、と続ける。
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