男子と会話はできません
試合が終わって、わたしはその場からしばらく動けなかった。
市ノ瀬くんの姿が、目に焼き付いて離れなかったから。気持ちまで持っていかれたみたいだった。
やっぱり一生懸命やってる姿はかっこいいな。自分も何かに頑張りたくなる位、心を刺激する。
帰ろう。ようやく腰をあげた。階段を下りて右手にあった女子トイレが目に止まり、向かうと手洗い場のところで、ジャグの中身を捨てている若槻さんと鏡越しで目が合った。
驚いたのはお互い様といったところで、声が出せなかった。
「高塚先輩」と振り返り、先に声をかけたのは若槻さんだった。
どうしてここにいるんだろうと、不信に思ったに違いない。会釈だけして、トイレ用のスリッパに履き替え、個室のトイレに逃げ込むように入った。
付き合ってるのかな。やっぱり。どうしよう。若槻さんから、勝手に見に来てたこと知られたら、気持ち悪いと思われるに違いない。
だけど、こうなることを選んだのは、わたしだし。
少し時間を置いて出て行ったけど、若槻さんは同じ場所にいたから、隣の蛇口をひねり手を洗った。