男子と会話はできません
急いだ足音が近付いた。また追い抜かされるんだろうな。
そう思っていたのに、
「羽麗ちゃん」
と、腕を引かれた。わたしを安心させてくれる優しい声音だった。そのまま後ろから抱き締められる。市ノ瀬くんだった。
「ずるいんだけど」
「えっ?」
「なんでいつも簡単に俺の気持ち、持っていっちゃうの?」
「……」
「シカトしようと決めたのに、結局気になっちゃったよ。さっきの話も嬉しかったけど、あれだけじゃないでしょ?言いたいこと」
「うん」
「じゃあさ、やっぱり聞かせてよ」
「好きなの。市ノ瀬くんのこと。やっぱり好きだった。勝手でごめんね。でももう自分の気持ちがわかったから、もう一度、市ノ瀬くんと一緒にいたい」
「……」
「ダ……ダメだよね」
僅かな沈黙に、気持ちが一気に沈んでいく。
市ノ瀬くんが、聞きたい話じゃなかったのかもしれないと。