男子と会話はできません
顎先に手が触れた。顔を少し後ろに向かされると唇が重なった。
驚いて声が出なくて、少ししてキスしてくれたと理解すると、心を縛っていたものがほどけていくみたいだった。
「あのさ、こんな風に抱きしめてるのに、ダメなわけないでしょ」
「あっ……そっか」
「本当にいちいち可愛いんだから」
頬が軽く熱を持つ。やっぱり嬉しいんだ。市ノ瀬くんにそう思ってもらえることが。
「俺だって、好きだよ。忘れられるわけない。こんなに好きな子のこと」
「……う、うん」
「だから、一緒にいていいよ」
「うん……お願いします」
その言葉は、一度目の告白の返事と同じはずなのに、まるで誓いをたてたみたいな重みがあった。
そっか。誓いをたてたんだ。市ノ瀬くんだけだって、ちゃんと心が決めたんだ。そうしたいって。
同じ言葉なのに、意味が違く感じられたのは、そのせいだ。