男子と会話はできません
side.H
下駄箱で上靴に履き替えているときだった。
「おい」
振り向いた瞬間、かなりの接近戦となる。下駄箱に手をつき、俺を逃がさないように封じ込める市ノ瀬がいたからだ。
たぶん、あれだ。
敢えて市ノ瀬をシカトしていたから、ちゃんと話をしようと強行突破に出たんだろう。
「隼人」
「なに」
「シカトすんなよ、ハゲ」
「まだハゲ散らかしてないよ」
「ハゲ散らかり具合はどうでもいんだよっ。つうかさ、おまえがそんなに俺を気に入らないんなら……勝負しねーか」
「勝負?何の?」
「マラソンに決まってるだろうが!」
「別にいいけど」
「お前、俺が遅いと思ってんだろう?悪いけどバスケ部なめんなよ。持久力有り余ってんだよ!」
自分から勝負を挑んできたのに、承諾して怒られても困るけど、素直になれないだけなんだろうなと、市ノ瀬の気持ちは何故か手に取るようにわかってしまう。