男子と会話はできません
「つうか石川、急に割り込んでくるなよ」
「いや。変な虫を見つけたからさ。駆除に」
「へー。虫ね……えっ?虫?俺?」と、遅れて気付いた。別に何か悪いことをしようと企んでいるわけでもないというのに。
戸惑っていた羽麗ちゃんの顔が、ふわりとした笑顔に変わった。
あ、俺に、笑ってくれた。
なぜか、ドキリとした。なんだこの笑顔。不意打ち過ぎる。だけど同時に安心した。そんな微笑みだった。
「あ。良かった。笑った」
「えっ?」
「昨日怒らせちゃったから、笑った顔見れて嬉しい」
そのときは、純粋にそう思った。
昇降口の前の花壇で羽麗ちゃんを待ったのも、そのせいだった。「今度は好きなやつを買ってくる」と、言ったことは守りたいし。また笑ってほしいのもあった。
だけど、手渡したサイダーも飲めなくて、思いつきで、一緒にスーパーまで買いに行った。
少し無理やりだったかもと、隣で俯き、距離を取って歩く羽麗ちゃんを見て思った。いつものノリで話しかけても、
「彼氏いるの?」
首を横に振り、
「部活は?」
「園芸部」
と、いちいちそっけない。隼人と同じ地元だというのに、ちょっと驚いたけど。