男子と会話はできません
「やっぱり」
「羽麗ちゃんさ、俺が一年のとき、音楽の教科書渡しにいったの覚えてる?」
「……」
「俺、覚えてる?」
首を横に振った。たぶん顔なんか見えてなかったに違いない。
「教科書渡したら奪い取るように戻って行ったから、嫌われてるのかと思ったんだけど心当たりもないし、なんだこの子って思ったの覚えてる」
「ごめんなさい」
「謝ってほしかったんじゃないから、気にしないでよ。ただちょっと気になってたから、謎が解けて安心した。男、苦手なだけだったんだ」と、笑った。
「苦手じゃなくて、あまり話さないようにして……たから、ちょっと緊張する」
「なんで話さないようにしてたの?」
「……」
「言いたくないなら良いけどさ」
と、ベンチの背もたれに背中を預けた。だけどこのバリアみたいな空気を解いてみたいなと思った。
石川に向けられる自然な笑顔を見てみたいなと思った。