初恋は最後の恋
prologue-小さき恋心-
小さき恋心
その日、私は幼稚園で母親が迎えに来るのを待っていた。母親は仕事の都合上、迎えに来るのがいつも遅い。でも、私は気にしていない。母子家庭で女手一つで私を育ててくれた母親を、私は誇りに思っている。当時の私に「誇り」なんて感情があったかは分からないが、友達が皆帰って一人ぼっちで待っていても、全然寂しくなかった。
「今日も俺とお前が最後か」
ふと聞きなれない声がして振り返ると、聞きなれないながらも見慣れた顔があった。その子は私と一緒で、いつも最後まで幼稚園に残っている。事情は知らない。園内での組も違うし、話した事などなかった。だからその子の声に凄くびっくりしたのは覚えている。
「俺、結城真樹。お前は?」
「長谷川・・・奈々」
この子、凄く偉そう。私は少しムッとした感じで答えた。それに真樹って、女の子みたいな名前。私は小さく笑ってしまった。結城くんはそれに気付いて、顔を真っ赤にしながら言った。
「わ~ら~う~な~!」
「だって、女の子みたい」
「そんなの俺が一番よく分かってるって!くそっ、話しかけるんじゃなかった」
そう言いながらも、結城くんも笑っていた。
その後は楽しいひと時だった。私たちはお互いの親が迎えに来るまで沢山話した。どうやら結城くんも母子家庭で、母親が仕事終わるまで待っていたらしい。そういう共通点を別にしても、結城くんとは妙に気が合った。ちょっと偉そうでムカつく事もあるけど、私はものの数分で結城くんが好きになった。もっとお話したい、そう思った時、幼稚園の外に一台の車が止まった。あれは、母親の車だ。
「迎えが来たみたいだな。行ってこいよ。俺はもう少し、待ってるからさ」
いつもなら走って母親に抱きついて「お母さん、お疲れ様!」と言うのだが、私は結城くんが気になった。もっと話していたいというのもあるが、それとは別にとても寂しい気持ちになったからだ。
「また明日もいっぱいお話しようね!」
私は元気いっぱいにそう言った。でも、結城くんは何も答えなかった。
母親が私を呼んでいる。行かなければ。また明日会えるよ、だから大丈夫。
私が母親の元へ一歩踏み出そうとした時、結城くんの小さな声が聞こえた。先程までの偉そうな口調とは違う、とてもか弱い声。
「俺、明日引越しするんだ」
振り返ると、結城くんは俯いていた。
「母親の仕事の都合でさ。だからここに来るのも今日が最後だったんだ」
「遠くって、どこに行っちゃうの?」
「んー。忘れた」
母親の元に向かおうとした足を止め、私は結城くんに駆け寄った。
「でも、また会えるよね?」
思わずそう言っていた。ほんの数分話しただけだったが、私は結城くんともう会えなくなるのが嫌だった。
結城くんはそんな私を見てニッコリと笑った。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。きっと私も同じだろう。結城くんは右手の小指を私に突き出した。
「また戻ってくる。約束の指切りだ」
私はその言葉を聞くより早く、結城くんの小指を両手で掴んでいた。
「おいおい、指切りも知らないのか?指切りってのはだな」
「約束、約束だよ!」
結城くんの言葉を遮って、私は何度もそう言った。結城くんも小さく笑いながら
「ああ、約束だ」
そう言ってくれた。
数年の歳月が経ち、私は高校生になった。机に突っ伏して小さかったあの頃の夢を見ていた。
「約束・・・だよ」
先生の咳払いも、クラスの友達の笑い声も、今の私には届かなかった。
「今日も俺とお前が最後か」
ふと聞きなれない声がして振り返ると、聞きなれないながらも見慣れた顔があった。その子は私と一緒で、いつも最後まで幼稚園に残っている。事情は知らない。園内での組も違うし、話した事などなかった。だからその子の声に凄くびっくりしたのは覚えている。
「俺、結城真樹。お前は?」
「長谷川・・・奈々」
この子、凄く偉そう。私は少しムッとした感じで答えた。それに真樹って、女の子みたいな名前。私は小さく笑ってしまった。結城くんはそれに気付いて、顔を真っ赤にしながら言った。
「わ~ら~う~な~!」
「だって、女の子みたい」
「そんなの俺が一番よく分かってるって!くそっ、話しかけるんじゃなかった」
そう言いながらも、結城くんも笑っていた。
その後は楽しいひと時だった。私たちはお互いの親が迎えに来るまで沢山話した。どうやら結城くんも母子家庭で、母親が仕事終わるまで待っていたらしい。そういう共通点を別にしても、結城くんとは妙に気が合った。ちょっと偉そうでムカつく事もあるけど、私はものの数分で結城くんが好きになった。もっとお話したい、そう思った時、幼稚園の外に一台の車が止まった。あれは、母親の車だ。
「迎えが来たみたいだな。行ってこいよ。俺はもう少し、待ってるからさ」
いつもなら走って母親に抱きついて「お母さん、お疲れ様!」と言うのだが、私は結城くんが気になった。もっと話していたいというのもあるが、それとは別にとても寂しい気持ちになったからだ。
「また明日もいっぱいお話しようね!」
私は元気いっぱいにそう言った。でも、結城くんは何も答えなかった。
母親が私を呼んでいる。行かなければ。また明日会えるよ、だから大丈夫。
私が母親の元へ一歩踏み出そうとした時、結城くんの小さな声が聞こえた。先程までの偉そうな口調とは違う、とてもか弱い声。
「俺、明日引越しするんだ」
振り返ると、結城くんは俯いていた。
「母親の仕事の都合でさ。だからここに来るのも今日が最後だったんだ」
「遠くって、どこに行っちゃうの?」
「んー。忘れた」
母親の元に向かおうとした足を止め、私は結城くんに駆け寄った。
「でも、また会えるよね?」
思わずそう言っていた。ほんの数分話しただけだったが、私は結城くんともう会えなくなるのが嫌だった。
結城くんはそんな私を見てニッコリと笑った。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。きっと私も同じだろう。結城くんは右手の小指を私に突き出した。
「また戻ってくる。約束の指切りだ」
私はその言葉を聞くより早く、結城くんの小指を両手で掴んでいた。
「おいおい、指切りも知らないのか?指切りってのはだな」
「約束、約束だよ!」
結城くんの言葉を遮って、私は何度もそう言った。結城くんも小さく笑いながら
「ああ、約束だ」
そう言ってくれた。
数年の歳月が経ち、私は高校生になった。机に突っ伏して小さかったあの頃の夢を見ていた。
「約束・・・だよ」
先生の咳払いも、クラスの友達の笑い声も、今の私には届かなかった。