鬼系上司は甘えたがり。
しかし、部長のデスク--窓際のひなたぼっこ席の前に立ち、ピラピラと誌面サンプルを見せられながらそう答えた主任の声はもの凄く低い。
それはもう、フロアにいる社員全員が思わず“ひいぃっ!”と縮み上がってしまうほどに。
たかが5日、されど5日。
お正月休みも入るために、今の編集部はてんやわんやの忙しさで、来年の1月25日に発行になる2月号の誌面だって、この時期から時間に追われて作っているというのに……。
あなたに名前を呼ばれた瞬間、主任のこめかみにピシリと青筋が浮いたの見えないのですか。
今もどこか血走った目で“たかが忘年会の店決めの相談でいちいち俺を呼ぶんじゃねぇよこのタヌキ!”と、本当にタヌキ顔とタヌキ腹をした部長を鋭く睨んでいるの、気づきませんか。
あとでとばっちりを食うのは私なんだよ〜、早く気付いておくれよタヌキ部長!
けれど。
「ん〜、でもねぇ〜、どっちのお店もウチのフリーペーパーによく載せてもらってるし、どっちかなんて簡単に選べないんだよ~。そういうの、新田くん得意でしょ? 角が立たないように上手くやってもらえると助かるな〜」
あちらは全く気付く気配ナシ。