鬼系上司は甘えたがり。
けれど口調や強引さとは裏腹にしっかり抱きとめてくれた主任は、危なかったーと胸を撫で下ろす私に綺麗なドS顔でほくそ笑むと、そのままグイグイと手を引いて街を歩きはじめる。
なんなの? 密着したかったの?
手を引かれるままに歩きながらこっそり主任の表情を窺ってみると、案の定、無表情を装いつつも少しだけ口元が緩んでいるように見えたので、おそらく密着ご希望だったのだろう。
相変わらず強引だけど可愛い人だ。
そんなことがありつつ。
「さっきからずっと気になってたんだけど、手に持ってるそれはなんだ? 重そうだな」
近くのコーヒーショップでテイクアウトしたホットコーヒーを飲みつつ、やっと普通の恋人らしく手を繋いでイルミネーションの下をゆっくりと歩いていると、ちょうどベンチが設置してある場所で主任が訝しげに訊ねてきた。
別に隠すほどのものじゃないし、ずっと持っていたら気になるだろうし、でも本当は部屋にお持ち帰りされたあとで渡すつもりだったんだけど……うーん、ベンチもあるし、いいかな。
逡巡したのち、私の左側を歩いていた主任の横にあるベンチに誰も座っていないことを確認した私は、例の紙袋の持ち手に力を込める。
よし、今渡してしまおう。