鬼系上司は甘えたがり。
 
大きく頷いた私に柔らかな顔で微笑むと、主任は今履いている靴をポイと脱ぎ捨て、修理が終わったばかりのそれをさっそく履きはじめた。

焦げ茶色の、シンプルなそれ。

主任のご両親が、就職したての息子のために、きっと2人でたくさん相談して、悩んで、色んなお店を見て回って“この一足”を選んだ。

その時間はかけがえのないもので、ずっと幸せで、でも少しだけ心配だったりもして。

それが分かるから、贈られた主任も大切に履いていて、くたびれて履けなくなってからも捨てずにずっーと持っているんだ……感動の場面に私も立ち会えたことに胸が熱くなる。

が--コチン。


「あっ」

「お?」


主任が放った靴の片方が、私の位置からだと右側、主任からすると左側の位置に背中合わせに座っていた人の肩に当たり、私たちは同時に声を上げ、そこに一瞬、気まずい沈黙が流れた。

なななんてことを!

人様に当たったではないか!


「す、すみませんっ。すみませんっ……!」


ハッと我に返った私は、自分が座る横にゴトリと落ちた脱ぎたてホヤホヤの革靴にじっと目を落としている被害者さんの前に回り込み、クリスマスにすみません!とペコペコ頭を下げる。
 
< 142 / 257 >

この作品をシェア

pagetop