鬼系上司は甘えたがり。
大丈夫かな、と思っていると。
「薪、悪い。池畑さんのところへは一人で行ってもらえるか? ちょっと厄介な案件が入ったんだ。先方には俺から話を通しておくから、戻ったら報告だけよろしく頼むぞ」
「え、」
その心配は見事に現実になって現れる。
私のデスクまで来た主任は、しばし固まる私に渋い顔でそう断りを入れてきたのだ。
「大丈夫だ、池畑さんは紳士な方だ」
「……は、はい。了解しました」
思わず条件反射的に頷いてしまったけれど、もしかして主任、セクハラとか、そういうことを心配して私が固まったと思ったのだろうか。
私にセクハラしてくる人は主任しかいませんって、この人、どんだけ私を美化しているの……。
私が心配しているのは、電話を受けてからの主任の様子と、そのいかにも面倒事が発生したと分かる渋面のほうで、けして池畑さんがどうこうという話ではないのだけど、それにしても、声や態度、顔にも滅多に出さない主任がここまでの渋面を作るって、一体……?
けれど、どんな仕事も完璧にこなす主任のことだ、無闇に心配したところで「お前はお前の仕事をしろ」とかなんとか言われるのがオチ。