鬼系上司は甘えたがり。
由里子談の“私が社内で密かにモテている”というのは、さすがにどうかと思うものの、でも確かに、主任に余計な心配をかけないためには私がしっかりするべき部分も多々あるはずだ。
すごく良くして下さったけど、奥平さんとは今後、節度あるやり取りを心がけよう。
……主任のためにも。
そうして、少し長めの休憩を終えて、お手洗いへ寄ると言う由里子と別れ編集部に戻ると、ちょうど主任が帰社したところに遭遇した。
「お疲れさまです」と声をかけると、相当疲れたのだろう、主任はただ「……ああ」とだけ返事をし、すぐさま自分のデスクに向かっていく。
疲れているところ申し訳ないと思いつつ、紅葉屋さんについての報告をするために追いかけるようにしてデスクまで小走りでついていけば、椅子にどっかりと腰を下ろした主任は、なぜか私を避けるようにデスクの上に組んだ自分の手に視線を落とし、次いでその薄い唇から俄かには信じられないようなことを淡々と口にした。
「少し疲れた。報告は書類にして俺のデスクに置いてくれ。……あと、もう部屋には来るな」
「え……」
「すまん、距離を置きたい」