鬼系上司は甘えたがり。
『ふふ、声がビックリしてますね。そのお話もお会いしたときにゆっくりさせてください。とりあえず、1時間後に駅前の銅像の前で待ち合わせる、というのはいかがですか?』
しかし奥平さんは、相変わらず柔らかい物腰でどこか楽しそうにそう言い、私の返事を待つ。
相当予想外のところにあったのだろうか、まるで宝を掘り当ててはしゃぐ子供みたいな彼の幼い雰囲気に、そんな想像をしてしまう。
「ええ、もちろん構いません。一時間後、駅前のあの“鳥と戯れる少女”の像の前ですよね?」
『そうです、そうです』
「分かりました、向かいますね」
『はい。お願いします。それと、ついでといってはなんなんですが、久しぶりに街に出るので少し買い物などにつき合って頂いてもいいですか? あ、彼氏さんに怒られちゃいます?』
「……いえ、大丈夫です」
“彼氏”という言葉を聞いた瞬間、無意識に体が強ばり、スマホを握る手にギュッと力が入ってしまったけれど、なんとか声に緊張感が滲まないように努めながら、そう返事をする。
そうして会話は『よかった、では後ほど』「何から何までありがとうございます」と締めくくられて終わり、通話終了ボタンをタップすると私は急いで出かける準備をしたのだった。