鬼系上司は甘えたがり。
「先にお渡ししたほうがいいですよね。それじゃあ……あそこのカフェに入りましょうか」
「はい」
辺りを見回しながら落ち着いて話ができる場所を探していた奥平さんに頷き、グッとお腹に力を入れてカフェへ向かう彼の後ろをついていく。
今日の奥平さんの格好は、Vネックのオフホワイトのカットソーに、ネイビーのショール衿のニットカーディガンを合わせ、ボトムはジーンズに、足元はキャメル色のショートブーツだ。
どれも余計な柄や飾りのないシンプルなデザインは、奥平さんらしいなと思うと同時に、大人の余裕や色気を私に感じさせる。
スーツ姿のときもスタイルのいい人だなと思っていたけれど、完全にオフの姿の彼を初めて見て、シンプルなデザインだからこそスタイルの良さが際立って見えるのだなと有無を言わさず納得させられたのは言うまでもない。
しかし彼は、すれ違う女の子が自分に目をハートにし、おまけにポーッと頬を染めていることに果たして気付いているのだろうか。
「ごめんなさい、俺、歩くの速かったですね」
「おおお奥平さん、自分で持てますから!」
「俺が持ちたいんですよ、お願いします」
「……」