鬼系上司は甘えたがり。
奥平さん、格好いいもんなぁ、と道行く女子の視線に大いに頷きながら歩いていると、数歩先を行っていた彼がくるりと振り返り、唐突に私のバッグを奪ってニッコリ笑う。
彼に注目していた女の子たちからの“なんだ彼女持ちか”、“ていうか彼女ビミョーじゃない?”的な空気を感じながら、奥平さんのエスコートにも心底驚いた私は、熱くなる顔を俯かせ、恥ずかしさに耐えながら歩くしかなかった。
いや、彼女ではないんですけど、イケメンの隣りをビミョーな女子が陣取ってしまってすみません。おまけにバッグまで持たせてしまってごめんなさい。今日だけですからご勘弁を……。
奥平さんのイケメンぶりは何度もお会いして十分知っているはずだったのに、もう少し周囲の視線に耐えうる精神を鍛えておくべきだったと彼の隣りを歩きながら痛切に思った私だった。
けれど、やっとの思いでカフェに着いても、周囲の目を気にせず、というわけにはいかない。
会計待ちの列に並びながら、ふと落とされた彼の提案に、思わず目を全開に見開いてしまう。
「今日は天気もいいですし、テラス席でゆっくりお話ししましょうか。何飲みます?」
「え‼」
「ダメでした?」
「いえ、そ、そんなことは、ないですけど……」