鬼系上司は甘えたがり。
「ねえ薪ちゃん、私は、流されるのだけは絶対に許さないよ。もしも仮に『主任を好きなままでいいから付き合ってほしい』なんて言われても、曖昧な態度だけは取らないでね」
すると、由里子が口を開く。
真っ直ぐに私を見つめてくる由里子の表情は、いつもの毒舌美人な様と違って“心配”を絵に描いたように険しいもので、そんな彼女の気持ちに胸の奥がじんわり熱くなってくる。
完全に好きにはなっていなくとも、自分を好きだと言ってくれる人とつき合っていくうちに前の恋を忘れられることもある--確かにそういう恋の始まり方もあって、恋愛映画でそんなシーンを観ると素敵だなと思ったりもする。
だけど現実は映画のようにはいかない。
主任と私は、同じ職場の上司と部下。
顔を合わせれば合わせるだけ、主任があの革靴を履いている姿を見れば見るだけ、僅かながらまだ繋がっているのだと何とも言えない気持ちになり、うっかり泣きそうになってしまう。
……そう。
主任は今日も、私がクリスマスプレゼントとして修理を依頼し、また履けるようになった、ご両親との思い出の革靴を履いているのだ。