鬼系上司は甘えたがり。
な、何なんだろう、この茶番……。
これはもしや、いや、もしかしなくても、多賀野くんに一杯食わされたってこと?
「ていうか、恋人の首を背後から腕で締め上げるなんて、やっぱ鬼畜野郎ですね。どう見たって人質を取ってるようにしか思えませんけど」
すると多賀野くんはそう言い、言葉を失う私たちに「でもすごくお似合いですけどね」と言い残すと、あとは二人でごゆっくりと言わんばかりに微笑みながら部屋を出て行った。
クリスマスのあの日、街で偶然再会したときと同じモッズコートの裾を翻しながら。
それからしばし、多賀野くんの足音が遠ざかっていくのと、外階段のドアが開閉される音を呆然と聞いていた主任と私だったけれど。
「……確かに人質みたいだな」
「ですね」
ふっと主任が緊張の糸を緩めたのをキッカケに久しぶりに仕事以外の会話を交わした。
多賀野くんはもう去ったというのに未だに私をがっちりホールドしている主任の腕に若干の苦しさを感じるものの、数ヵ月ぶりの密着に幸せを噛みしめてしまう私は、離れていた間もやっぱりこの人に毒され続けていたらしい。