鬼系上司は甘えたがり。
主任がなかなか私を離さないのをいいことにその腕にすり寄り、はぁ……安堵の溜め息を零す。
この人を守れて良かった、多賀野くんとの長い間の軋轢に解決の糸口が見つかって良かった。
すると。
「--薪……」
私の首筋に唇を寄せながら、主任が囁いた。
その声には言葉では言い表せないくらいに切なさが滲んでいて、私を巻き込んでしまった後悔や責任を重く受け止めている様子が窺える。
けれど私は、ただ名前を呼ばれただけなのに体の奥からじんわりと熱いものが込み上げ、こんなときだというのに、はしたなくも今すぐ主任に抱かれたいだなんて思ってしまった。
「……ごめん、薪。多賀野がもし本当に危険なヤツになっていたとしたらと思うと、どうしてもお前をそばに置いておけなかったんだ」
そんな中、主任が話しはじめる。
その声は今までに聞いたどんな声よりも苦しげなもので、けれど私はただ首をフルフルと振ることしかできず、歯痒い思いを募らせる。
掛けたい言葉は沢山あるのに、どんどん込み上げてくる涙で喉が詰まって言葉にならないことの、なんとが歯痒くてもどかしいものか……。